2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

青夏(せいか)のみぎり(3)

「悪い」 守は気まずそうに引き攣らせた薄い笑顔を見せると、再びドアを閉めて何処かへ行ってしまった。 「ち、違うんだって……!」 弁解の言葉は鉄製のドアにぶつかり、虚しく床へと転がった。 「痛い」 千一(ゆきひ)は自分のすぐ下から静かに発せられた声…

幻にあらず

今朝、祖父が死んだ。 まるで眠っているだけのような顔をして死んでいた。 触れてみたその肌は、もっと温かくてもよさそうな感触だったが、およそ体温とよべる熱は存在しなかった。 中学二年の後半から学校へ通えなくなってしまった僕は、三年に上がった二ヵ…

青夏(せいか)のみぎり(2)

「ユキ君」 杉崎は周囲の視線など意に介さないといった様子で、千一に向かって手を振った。視線は一気に千一に集まり、次に二人の間を行き来した。容姿を比べられているのが直感で分かる。千一は慌てて鞄に荷物を突っ込み、視線から逃れるようにして杉崎の元…